第91章 蠢く脅威<肆>
「アンタなんかにアタシの頸が斬れるわけないでしょ、この雌豚が!!」
その瞬間、汐の鳩尾に堕姫の足が食い込み、汐はそのまま屋根から地面に叩きつけられた。とっさに呼吸で受け身はとったものの、全身に痛みが走り小さくうめいた。
その隙を見逃さず、堕姫は再び帯を伸ばして汐を貫こうとする。汐はすぐさま動き、その攻撃をかわすと、再び大きく息を吸った。
――ウタカタ・参ノ旋律――
――束縛歌!!!
空気が張り詰める音と共に堕姫の帯が一瞬止まり、汐はそのままもう一度今度は地鳴りのような呼吸音を響かせた。
肆ノ型・改――
――|勇魚《いさな》下り!!!!
ウタカタと海の呼吸を瞬時に切り替え、汐は猛攻撃を堕姫に叩き込む。わずかだが押され始めた堕姫は、帯を叩き落す汐を睨みつけながら思った。
今のままでは少しまずいと。
「!?」
背後から別の鬼の気配を感じ、汐はすぐさま堕姫から離れ間合いを取った。すると後方から一本の帯のようなものが飛んできて、堕姫の身体の中に吸い込まれるようにして戻っていった。
(アイツは、鬼の使い魔!?)
汐が再び刀を構えると、堕姫はにやりと嫌な笑いを浮かべながら再び帯を伸ばしてきた。
使い魔が戻ったせいなのか、先ほどよりも帯の速度と強さが上がっているように感じ、汐の顔が引きつった。
それを感じ取ったのか、堕姫は先ほどやられた分をやり返すように容赦なく責め立てた。
「さっきまでの威勢はどうしたの!?耄碌してるのはアンタの方だったようねぇ!!」
堕姫は耳障りな笑い声をあげながら、四方八方から帯を汐に向けて撃ち込んできた。