第88章 蠢く脅威<壱>
店に潜入したはじめての夜。汐は他の遊女の手伝いをしながら、鬼の気配を捜した。
夜は鬼が動く時間。もしも何かあれば即座に対応できるよう、神経を研ぎ澄ませて。
しかしその日は特に何も起こらず、めかしつけた汐の美貌に惹かれた客がまとわりつき、それを汐が秘密裏に処理したのは誰にも知られなかった。
(ふぅ、今日はいろいろと怒りすぎて疲れたわ・・・)
雑魚寝部屋へ戻った汐は、皆がそれぞれ寝息を立てている中一人考えていた。
(昼間鯉夏さんが言っていた海旦那って、たぶんおやっさんの事よね。伝説になる程なんて、どれだけ通ってたのよ、あの爺)
けれど玄海が来たことで借金が減り、町を出やすくなった者達がいることは紛れもないことで、当時の彼女たちにとっては地獄から救ってくれる仏のような存在だったのだろう。
そして彼の言葉は今も尚、ここに残り遊女たちに希望を与えている。
(明けない夜はない、か。おやっさんらしいというかそうじゃないというか。でも確かに、どんな夜でも必ず朝は来る。だからあたしも、ここにいる連中も、明日を迎えさせるためには須磨さんたちを見つけて鬼を何とかしないと・・・)
汐は首を動かし、どこかで眠っているであろう炭治郎を想いながら目を閉じた。
(炭治郎、あたし頑張るから。あんたもシャキッとしなさいよ。それと、少しでも鼻の下伸ばしたら・・・蹴りつぶす・・・からね・・・・)
そんな物騒なことを考えつつ、汐の意識は闇の中に沈んでいくのだった。
しかし、この時二人は知らなかった。
伊之助が未遂とはいえ鬼と遭遇し、善逸の身に危険が迫っていることに――