第87章 鬼潜む花街<肆>
「平凡だわ」
汐の化粧を落とした女将たちは、汐の顔をまじまじと見てからぽつりとつぶやいた。
それを見た他の者達も、うんうんとうなずきながら汐を見て言った。
「平凡ね。不細工ってわけでもないけれど、美人ってわけでもない。どこにでもいそうな顔ね」
思っていたものとは違いがっかりした眼を向けている彼女たちに、汐の体は怒りで震えるが、決して癇癪を起すなと宇髄にきつく言われていたため、何とか我慢した。
(こいつらっ・・・人の事ぼろくそ言いやがって・・・!)
何とか平常心を装おうと、頭の中で歌を歌う汐。すると、その様子を見ていた楼主が女将をなだめるように言った。
「まあまあ。逆にこういう平凡な顔の子ほど、化粧をすると案外変わるもんだよ。まずは整えてみなさい」
「・・・そうね。諦めるにはまだ早いわね。あれほど手間をかけさせられたんだ。これで何も変わらなかったら絶対に許さないわよぉおおお!!」
女将は鼻息を荒くしながら腕をまくると、周りのものに指示を出して早速汐の化粧に取り掛かった。
汐の顔の形や凹凸に合わせ、白粉の濃さや紅の濃さを調節し、いくつかの着物を見繕い、化粧に合わせて何度も試行錯誤を繰り返した。
初めは汐に疑惑の目を向けていた女将だったが、化粧が進むごとにその顔つきはみるみる変わり、いつの間にか彼女の眼には微かな期待と変わっていく汐にだろうか、驚きが少しずつ浮かんでいった。
そしていつの間にか汐の化粧をするものは少しずつ増え、最後には数十人の者が汐のめかしつけに携わった。
そして化粧を始めてから約二時間後。
「こ・・・これは・・・!!」
化粧を終え、身支度を整えた汐を見て女将たちは勿論周りのものも思わず目を見開いた。