第86章 鬼潜む花街<参>
そして一番初めにときと屋に来た炭治郎は、額の傷がばれてしまい雑用係として働いていた。
禰豆子の入った箱は丁寧に隠し、鍵を付け絶対に開かないようにしていた。(これは彼にとっても不服だったが、やむを得なかった)
(みんなはちゃんと指定された店に潜入できただろうか。特に汐は、怒ると手が付けられなくなるからお店の人に迷惑をかけていないだろうか)
働きながらそんなことを考えていると、ふと化粧部屋の辺りが騒がしくなった。炭治郎は何事かと思い、仕事を片付けた後こっそりと様子を見に行った。
そこには何人かの店の者が化粧部屋を覗こうとひしめき合っているようだった。
「あ、あなたは確か新しく入った・・・」
「たん・・・炭子です。あの、これはいったい?」
炭治郎が首をかしげていると、同じくらいの禿の少女が上気させた顔を彼に向けながら興奮したように言った。
「さっき女将さんが新しい子を連れてきたみたいなの。炭子ちゃんもこっそり見てみなよ」
少女に促され、炭治郎は人の隙間からこっそりと顔をのぞかせた。その瞬間、彼の鼻に、嗅ぎなれた優しい潮の香りが届く。
(この匂いは・・・!!)
そしてその目に飛び込んできたものに、炭治郎の身体は石のように固まり、そして意識が遠のいていくのだった。