第86章 鬼潜む花街<参>
「花魁道中って確か、お気に入りの客を迎えに行く奴・・・だったっけ?」
「ああそうだ。しかし派手だぜ。いくらかかってんだ」
汐が宇髄を見上げながら訪ねると、彼は長身を生かして道中を眺めながら呟くように言った。
すると突然善逸が涙を流しながら宇髄の顔面すれすれまで近寄ってきた。
「嫁!?もしや嫁ですか!?」
「近い!!」
「あの美女が嫁なの!?あんまりだよ!!三人もいるの皆あんな美女すか!!」」
善逸は宇髄の着物を乱暴につかみながら捲し立てると、彼は善逸の顔に【番付】と書かれた紙を叩きつけながら叫んだ。
「嫁じゃねえよ!こういう“番付”に名前が載るからわかるんだよ!お前もぼーっとしてねぇでこいつを何とかしろ!」
宇髄は尚も掴みかかる善逸を引きはがしながら汐の方を向くが、彼女はじっと花魁道中から視線を放せずにいた。
(綺麗な人。ああいうのを本当の美人っていうのね。それにしても、炭治郎がここにいなくてよかったわ。あんなの見たら絶対に鼻の下伸ばすだろうし・・・あれ?)
汐はほっと胸をなでおろすが、その瞬間何故そんな気持ちになったのか急に不安になった。別に炭治郎とは特別な関係でも何でもないのだから、彼が何を考えていようと関係ないはずなのに。
そんな汐の微妙な変化に気づいていないのか、伊之助は道中を耳をほじりながら退屈そうに眺めていた。