第85章 鬼潜む花街<弐>
その後、ときと屋をでた宇髄は、炭治郎が二束三文でしか売れないことに文句をつけた。
しかし善逸は宇髄と目を合わせようとせず、大きくため息をついた。
「俺、アナタとは口利かないんで・・・」
「女装させたから切れてんのか?なんでも言うこと聞くって言っただろうが」
「言った覚えないわよそんなこと。あんたって本当、息をするように嘘をつくのね」
汐も理不尽な扱いに怒っているのか棘のある言葉を返すと、宇髄は小さく舌打ちをしながら答えた。
「正直者が馬鹿を見るって言葉を知ってるか?世の中はな、多少の嘘をうまく使える奴ほどうまく生きていけるんだよ」
「たとえそうだとしても、人を騙して生き抜くような腐った生き方はまっぴらごめんだけどね」
汐は宇髄を睨みつけるようにして見上げると、心なしか少しだけ彼の眼が悲しみに揺れた気がした。しかし、それを確かめる間もなく伊之助が突然、指をさしながら叫んだ。
「オイ!なんかあの辺、人間がウジャコラ集まってんぞ!」
その言葉に全員が視線を向けると、遠くから鈴を鳴らすような音が聞こえてきた。
四人は人ごみをかき分けながら目を凝らしてみると、そこには目を奪われるような美しい一人の遊女が、ゆったりとした足運びで歩いてくるのが見えた。
「あれは、花魁道中?じゃあ、あの人が遊女の最高位、【花魁】?」
「ああ。あの顔は確か、『ときと屋』の“鯉夏花魁”だ」
精錬されたその美しさに、善逸は勿論の事汐ですらその美貌に呆然としていた。