第10章 慈しみと殺意の間<肆>
そしていよいよ最終選別の日。来ていた羽織は、汚れてやぶれてしまったため、炭治郎と汐は鱗滝から羽織を借りて身にまとった。
空を思わせるような水色に、雲の文様が描かれたものだ。
炭治郎は鱗滝に借りた日輪刀を左腰に差し、汐はこの時のために鱗滝が手入れをしておいた玄海の刀を右腰に差した。
おそろいの羽織に左右対称に差された刀。こうして並ぶと、まるで本当の家族のように見えた。
そして鱗滝は、二人にあるものを差し出した。
炭治郎には左上に日輪の文様が彫られた狐の面。そして汐には、右上に波の文様が彫られた狐の面であった。
鱗滝が言うのは、これは『厄除の面』といい災いから身を守ってくれる|呪い《まじな》がかけられているそうだ。心なしか、二人に似ている気がする。
その面を二人は刀と同じく左右対称につけた。
禰豆子に挨拶をしに行った炭治郎を待っている間、汐は空を見上げた。雲一つない真っ青な空。これから自分の人生をかけた日の空としては、これ以上は申し分ない。
(おやっさん、絹、庄吉おじさん、みんな・・・あたし、頑張るよ。必ず炭治郎と一緒に生き残って、みんなの無念を必ず晴らすからね)
そして戻ってきた炭治郎とともに、鱗滝に頭を下げる。
「「いってきます、鱗滝さん」」
二つの声が綺麗に重なり、そして互いにうなずくと二人は目的地へ向かって走り出す。
が、突如二人は足を止め鱗滝を振り返った。
「あ、そうだ。鱗滝さん!錆兎と真菰によろしく!!」
「あ、あたしも!二人には改めてお礼を言いに行くからって伝えて!」
その言葉を聞いた瞬間、鱗滝の体が強張る。そのことに二人は気づかないまま、走り去っていった。
「炭治郎、汐。何故、お前たちが・・・」
――【死んだ】あの子たちの名前を、知っている・・・?