第78章 幕間その伍:さがしものとわすれもの
どこかにある、どこかの大きな屋敷。その一室では楽しげに笑う声が夜の闇に響いては消えていく。
「まあ本当に利発そうな子ですわね」
客人らしき女性が笑みを浮かべながらそう言うと、屋敷の主人らしき男は眼鏡越しに目を細めながら口を開いた。
「いやぁ、私も子供を授からず落ち込んでいましたが、よいこが来てくれて安心です。血の繋がりは無くとも親子の情は通うもの。私の後はあの子に継がせますよ」
男は本当にうれしそうに言葉を紡ぐが、ふとその表情に微かに曇りが差した。
「ただ皮膚の病に罹っていまして、昼間は外に出られないのです」
「まあ、可哀想に・・・」
その話を聞いた客人の女性は憐みの眼を彼に向けてそう言った。
「その特効薬もね、うちの会社で作れたらと思っているんです。一日でも早く」
そんな彼女の言葉に、男は希望を込めた言葉を返すのだった。
そんな会話が交わされた応接間から少し離れた一室では、一人の少年が書物に目を通していた。
真白な肌に真っ黒な髪。少しだけ赤みが掛かった目が、文字の羅列を追って動いていく。
そんな彼の部屋の窓に掛けられた帳が揺れ、冷たい風が少年の頬を穿った。視線を移せば、そこには全身に幾何学模様の痣を浮かばせた青年の鬼、猗窩座の姿があった。
「ご報告に参りました、無惨様」
猗窩座の言葉に少年、無惨は、瞬時に両目を鋭くさせると地を這うような声で静かに言った。