第76章 誇り高き者へ<参>
「炭治郎さんがいませぇん!!」
それはのけ反ったきよが善逸の顔面に後頭部を打ち付けたためだった。慌てて振り返れば、おびただしい量の鼻血を拭き出し倒れこむ善逸の姿があった。
「あーーっ、善逸さんごめんなさぁい!!」
慌てて泣きながら謝罪するきよに、善逸は焦点の全く合っていない目で大丈夫だと答えた。きよはそのまま善逸の鼻血を止めようと布をあてがいながら、炭治郎の姿がないことを訴えた。
「炭治郎さん、傷が治ってないのに鍛錬なさってて、しのぶ様もピキピキなさってて・・・!!安静にって言われてるのに!」
きよの言葉に善逸は驚き目を見開いた。炭治郎の腹の傷は、思ったよりも深く危険な状態だったはずだ。それなのに動くなんて馬鹿げている。と、思った時だった。
「大変大変!!たいへんですぅーー!!」
「今度は何!?」
二人の元に現れたのは、きよと同じく顔を真っ青にしたなほだった。彼女は二人の姿を見るなり、矢継ぎ早にまくし立てた。
「二人とも汐さんを見ませんでしたか!?さっき着替えを届けようとしたらお部屋にいなくて、どこを捜しても見つからなくて!あの人も肩とお腹の傷が深くて安静にしていないといけないのに!」
「ええっ、汐さんも!?」
なほの言葉にきよも善逸も目玉が落ちそうなほど大きく目を見開き、同時に顔を青ざめさせた。
「何やってんだよあのお二人さん!馬鹿なの!?本当に馬鹿なの!?」
屋敷中に善逸の汚い高音が、高らかに響いた。