第69章 無限列車<肆>
「な、なんだお前は!?」
いきなり声をかけられた少年は、顔を引き攣らせて慄く。するとその子供は少年を見据えたまま静かな声で言い放った。
『私はここの扉の番をしている者だ。そんなことよりも、お前は何故ここにいる?何をしに来た』
子供にしては低く落ち着いた声が少年を鋭く穿った。その顔は見えないものの、不快感と怒りが声色から見て取れた。
『そもそもここはお前のようなものが入ってこれる場所ではない。この領域の主でさえ、ここに入ることはかなわない。何かの干渉を受けない限りはな』
番人はそう言って少年の持つ錐に視線を移し、布越しに目を細めた。
『成程。大方、それを与えた者がお前を唆し、ここへ送り込んだということか。お前にとって願ってもみない条件を突き付けられて』
違うか?と言いたげに首をかしげる番人を見て、少年は身体を震わせて叫んだ。
「ああそうだ!俺はあの人に幸せな夢を見せてもらうためにここに来たんだ。こいつの精神の核をぶっ壊せば夢を見せてもらうと約束してな!」
怒りと苛立ちを孕んだ声が、海底内に静かに響く。まくし立てる少年の言葉を、番人は黙って聞いていた。
「妾の子として蔑まれ、父親と名乗る男には毎日殴られ俺の居場所なんかどこにもない!あるのは理不尽な暴力と、悪意に満ちた時間だけだ!」
少年の目からはいつの間にか涙があふれだし、頬を伝って流れていく。一度堰を切ってしまった言葉は止まらず、少年は自分の生い立ちを感情のまま訴えた。
番人は少年の言葉を黙って聞き、彼が全ての感情を吐き出すのを待ってからゆっくりと口を開いた。