第69章 無限列車<肆>
「こっちこっち!こっちの桃がおいしいから!!」
一面の桃の木が生い茂る場所を、善逸は禰豆子の手を取り楽しそうに駆けてゆく。彼女の口には枷は無く、その目は光り輝いていた。
「白詰草もたくさん咲いてる。白詰草で花の輪っかを作ってあげるよ禰豆子ちゃん。俺本当にうまいのできるんだ」
「うん。たくさん作ってね」
禰豆子の口から歯切れのよい声が零れ、善逸の耳を優しくくすぐっていく。そんな彼女に頬を染めつつ、善逸はひた走った。
「途中に川があるけれど、浅いし大丈夫だよね?」
「川?」
善逸の言葉に、禰豆子は表情を曇らせながら善逸の手を握り返した。
「善逸さんどうしよう、私泳げないの」
「俺がおんぶしてひとっ飛びですよ川なんて!禰豆子ちゃんのつま先も濡らさないよ。お任せ下さいな!」
善逸は顔を茹蛸の如く真っ赤にしながらも、誇らしげに胸を叩いたその時だった。
――ねんねんころり、ねんころり。ころりとおちるはなんのおと――
「ん?」
何処からか歌のようなものが聴こえてきて、善逸は思わず足を止めた。
しかし、もう一度耳を澄ませてみてもそれらしいものは聴こえない。
(今どこからか歌が聞こえたような・・・それもとてもきれいな女の子の声で!)
「善逸さん?どうしたの?」
禰豆子が怪訝そうに善逸の顔を覗き込むと、善逸は顔を赤く染めながら「何でもないよ」とだけ答えた。