第42章 絆<弐>
「さあ、もう奪(と)ったよ。自分の役割を理解した?」
汐は茂みからすぐに飛び出し、炭治郎もほぼ同時に二人で斬りかかった。そんな二人を見て、累は心底呆れたように言う。
「逆らわなければ命だけは助けてやるって言ってるのに」
累につかまれている禰豆子は必死にもがくと、自由になった腕で累の顔面を鋭い爪で引っ掻いた。しかし累はひるむことなく、二人に向かって糸を放つ。
その糸を炭治郎は後方回転で避け、汐は体をそらして避ける。が、体勢を立て直した二人の眼には累一人しか映らなかった。
(禰豆子がいない!?)
先ほどまで累につかまれていたはずの禰豆子の姿がどこにもない。あれほど執着している禰豆子を、自ら開放するとは思えない。
どこだ?禰豆子は何処にいる?
その答えは直ぐに明らかになった。二人の頭上から、おびただしい量の真紅の液体が降りかかってきたのだ。
視線を頭上に移した二人の顔が、瞬時に青ざめる。そこには、全身を糸で雁字搦めにされ宙づりにされた禰豆子の姿があった。
「「禰豆子---ッ!!!!」」
汐と炭治郎の叫び声が再び木霊する。禰豆子は全身から血を滴らせながら、苦痛に呻いていた。
「うるさいよ。これくらいで死にはしないだろ?鬼なんだから。でもやっぱりきちんと教えないと駄目だね。しばらくは失血させよう」
累の動物の調教以下の冷徹極まりない言葉に、汐の体が小刻みに震える。全身の血が怒りのあまり沸騰しそうだった。
「それでも従順にならないようなら日の出までこのままにして、少し焙る」
その言葉を聞いた瞬間、汐の中で何かが弾けた。それと同時に汐の足は地面を蹴り、累の下へ向かっていた。