第42章 絆<弐>
累の曝け出された眼を見て、汐は戦慄した。彼こそが本物の十二鬼月であり、鬼舞辻直属の配下の一人。
それならばさっきの強さは納得できる。だが、それでは尚更刀が破損している炭治郎は圧倒的に不利だ。
それをわからない程炭治郎は愚かではない。だが、今の炭治郎には何を言っても無駄だろう。だから今、汐にできることはただ一つ。
何があっても、禰豆子を守ることだ。例え、命に代えても。
「僕はね、自分の役割を理解していない奴は生きている必要がないと思っている。お前はどうだ?お前の役割はなんだ?」
累の問いかけに炭治郎は答えない。しかし累は、さほど気にすることもなく続けた。
「お前は僕に妹を渡して消える役だ。それができないなら死ぬしかないよ。勝てないからね」
淡々と言葉を紡ぐ累に、汐の拳が震える。そして傍らの禰豆子を固く抱きしめた。
(けれどどうする?奴の頸が糸より硬かった場合、炭治郎に勝てる術はない。でも、あたしは信じてる。炭治郎、あんたならきっと・・・)
累は沈黙を守る炭治郎の眼を見て、吐き捨てるように言った。
「嫌な目つきだね。メラメラと。愚かだな。もしかして――勝つつもりなのかな!?」
累が突然右手を大きく引くと、禰豆子の体が急激に引き寄せられた。汐はすぐさま両手で禰豆子の手を掴み、それを阻止する。
だが、相手の引く力の方が強く、ずるずると引き寄せられていく。それでも、汐は決して手を離さない。
(離すものか!炭治郎と約束したのよ。何があっても、禰豆子を守ると!!)
汐の抵抗に累は苛立たしさを顔に出すと、もう一本の糸を汐の顔めがけて放つ。が、糸が彼女に届く前に禰豆子が自ら手を放し、体が切り刻まれるのを阻止した。
「禰豆子ッ!!」
禰豆子の体は放物線を描きながら、累の下へ吸い寄せられるように飛んでいく。その体を受け止めると、彼は勝ち誇ったように炭治郎を見た。