第36章 幕間その参
「なんだお前?なんで雌みてぇに乳が膨れてんだ?」
伊之助の言葉に場の空気が瞬時に凍り付く。善逸は勿論、炭治郎もこの発言にはたまらずすさまじい顔で固まった。
が、我に返った二人は慌てて伊之助に詰め寄る。
「なんてことを言うんだ伊之助!!謝れ!!今すぐ汐ちゃんに謝れ!!死ぬ気で謝れこの野郎!!!」
「俺も善逸と同意見だ!!今すぐ謝れ!!取り返しがつかないことになる前に!!」
二人の嵐のような剣幕にも、伊之助は何を言われているのか分からないと言った様子で二人を見ている。だが、
「ちょっとどいて」
汐の氷のような声が響き、二人はびくりと震えて思わずよける。汐はそのまますっと伊之助の前に立つと、にっこりと笑って瞬時に彼の背後に回り込んだ。
そのあまりの速さに全員が目を剥いたその時。
「うるぅあああああああああああああ!!!!」
凄まじい奇声を上げながら、汐は伊之助に抱き着くとそのまま反り返り、その頭を畳に叩きつける。現代で言うなら『ジャーマンスープレックス』という格闘技の技だ。
いきなりの事態に炭治郎も善逸も、顔を思い切り引きつらせ動けないでいる。伊之助は頭を振り「てめ何しやがる!」と起き上がって抗議しようとした。
が、汐がその腹を踏んづけ狂気じみた笑顔を向ける。あまりの気迫に伊之助も思わず口を閉じ、汐から目を離せないでいた。
「ねえ、炭治郎、善逸」
その場には似つかわしくない程の明るい声で、汐は伊之助に笑いかけながら言う。
「あたし、今日の夕飯は牡丹鍋がいいなあ。ちょうど目の前に生きのいい獲物がいるし、三人で足りそうな量だし」
「え、え?汐、さん?」
「心配しないで?あたし、もともと解体するのは得意なの。故郷ではよく大きな魚を解体してたし、猪だって解体できるから」
「まずい!止めろ善逸!!今の汐は本気だ!本気で伊之助を解体する気だ!!」
炭治郎の言葉に善逸は驚き、慌てて二人を引きはがす。炭治郎が汐を隣の部屋に連れていき、善逸は汐が女性であることを滾々と伊之助に教え込んだのであった。