第30章 歪な音色(前編)<参>
それから三人ははぐれてしまった炭治郎たちを捜して、恐ろしい屋敷の中をさまよっていた。
汐を先頭に善逸、正一と続く。善逸は正一の手をしっかり握りながら汐の後ろをついていく。しかし時間が経つに連れ恐怖がよみがえってきたのか段々と善逸の息が荒くなっていく。善逸は全身を震わせているだけではなく、両手両足を同時に出してぎこちなく歩いていた。
しばらくは鬼を警戒して黙っていた汐も、段々と大きくなる善逸の息遣いに苛立ちを覚え始める。そしてその後ろにいる正一はそんな善逸を見て不安そうな顔をしていた。
(ああもう!正一の眼が不安でいっぱいになってるじゃない!やっぱり下手に動いたりしないほうがよかったかな・・・?)
汐は自分の判断が間違っていたかもしれないと今更ながらに後悔する。そんな彼女の気持ちなど露知らず、善逸は震えながらも後ろをついてきていた。
だが、
「すみません善逸さん」
「ヒャーーーッ!!」
「わああーーーっ!!!」
正一が声をかけた瞬間、善逸が悲鳴を上げて正一に飛びつく。至近距離で大声をあげられた汐もつられて悲鳴を上げでしまい、反射的に善逸の頭を平手でたたいた。
「人の耳元で大声を上げるんじゃないわよ!!心臓が口から飛び出すところだったじゃない!」
「そ・・・それは・・・俺の台詞だよ。正一君、合図、合図、合図をしてくれよ。話しかけるなら急に来ないでくれよ。心臓が口からまろび出るところだった・・・」
「すみません」
「もしそうなったらまさしくお前は人殺しだったぞ!!わかるか!?」
目玉を血走らせ涙を流し、震える声で善逸は正一に抗議する。あまりにも見苦しくあまりにも情けない姿に、汐も我慢の限界が来ていた。
「ただちょっと・・・汗息震えが酷すぎて・・・」
「なんだよォ!俺は精いっぱい頑張ってるだろ!?」
「口だけなら何とでもいえるわよ。現に正一が不安になってるから言ってるのよ」
汐はへたり込む善逸を蔑んだ眼で見つめながら言い放つ。先ほどの善逸による汚い求婚のせいで腹立たしいのか、彼女の声は刺々しい。
そんな彼女を見て善逸は「汐ちゃんまで~」と情けない声を上げた。