第27章 襲撃<肆>
汐は唇をかみしめ、血が出るほど拳をきつく握りしめる。その眼には激しい怒りと憎しみ、そして殺意が宿る。
それは炭治郎も同じだった。奴だけは決して許してはいけない。殺されてしまった大勢の人のためにも、鬼にされてしまった者たちのためにも――
「そろそろ行こうか、炭治郎。禰豆子が心配だし」
「ああ、そうだな」
二人はボロボロになってしまった屋敷に足を踏み入れる。陽光が入っているため鬼である彼らは地下にでもいるのだろう。
炭治郎が地下室の階段を下りていくと、すっかり元気になった禰豆子が炭治郎に飛びつく。
二人はしばらく抱きしめあったが、禰豆子は炭治郎から離れると元の道を戻っていく。
そして珠世に、炭治郎と同様に抱き着いた。それを見た愈史郎が激昂するが、珠世はそっと静止した。
「先ほどから禰豆子さんがこのような状態なのですが、大丈夫でしょうか?」
困惑する珠世に、炭治郎は安心させるように言った。
「心配いりません、大丈夫です。多分二人のことを、家族のだれかだと思っているんです」
禰豆子はそばにいた愈史郎の頭をなでようと手を伸ばし、それを本人に阻止されていた。
「家族?しかし禰豆子さんのかかっている暗示は、人間が家族に見えるものでは?私たちは鬼ですが・・・」
「でも禰豆子は、お二人を人間だと判断してます。だから守ろうとした」
禰豆子は珠世を抱きしめ安心した表情を浮かべている。
「俺、禰豆子に暗示がかかっているの嫌だったけれど、本人の意思があるみたいでよかっ・・・」
そこまで言いかけた炭治郎の言葉が不意に途切れた。珠世の薄紫色の瞳から、大粒の涙がこぼれだしたからだ。
それを見た炭治郎は激しく狼狽し、禰豆子に離れるように叫ぶ。が、珠世は禰豆子をぎゅっと抱きしめ、何度も礼を言った。
それを見ていた愈史郎の瞳が、少しだけ揺れた。まるで何かを、思い出すかのように・・・