第3章 嵐の前の静けさ<弐>
今汐が行っているのは『呼吸法』と『型』の指導だ。病弱だった汐を健康にした呼吸法は、本来は戦うための呼吸法だそうだ。
呼吸法にはいくつかの型があり、その方は流派によって違う。汐が習っているのは『海の呼吸法』と呼ばれる物で、なんと玄海が自ら生み出したものだった。
しかし彼曰く、この呼吸法は『未完成』であり、そのため型が5つまでしかない。それでも、呼吸法を扱うにはその5つの型を習得するほかなかった。
「よし!今度は俺との組手だ。今日は10発当てられたら夕飯にする」
「10!?いつもは5なのに、なんで今日は多いの!?」
「無駄口たたいている暇があったらさっさと動きやがれ。できねえと、いつまでも飯抜きだからな!!」
その後は玄海相手に時間無制限の組手地獄が待っていた。彼の言うとおり、決定打を10発当てないと終わらない。
しかも、昼間動けない鬱憤が溜まっているせいか、玄海の一撃は毎度本当に容赦がない。その中で10発も当てるというのは、常人にはほぼ不可能だ。
だが、こんな理不尽な要求も、長い間時間を共有してきた汐にとっては決して不可能ではない。
その日は3時間はかかったものの、彼が満足する決定打を10発見事に打ち込んで見せた。それが成功したとき、玄海は心から嬉しそうに笑った。