第26章 襲撃<参>
矢琶羽が再び矢印を放ってくる。少しでも触れてしまえば吹き飛ばされるうえに斬ることも消すこともできない、なんとも厄介な代物だ。
しかも先ほどの朱紗丸の様に、矢はほぼ無限に生み出されるらしい。何とかして矢印を少しでも減らさなければ・・・
矢印をよけながら、汐は記憶を手繰り寄せる。どこかに必ず何らかのほころびがあるはずだ。
(思い出せ、思い出すのよ。今までの奴の行動を、できる限り全て!!)
大きく息を吸いながら、脳に全ての血液を送るように、汐は考える。考えるのはあまり得意ではないが、今はそんなことは言っていられない。些細なことでもいい。何か思い出すことができれば・・・
(ん?そういえば・・・)
汐が朱紗丸と対峙している際、一つだけ気になることがあった。そういえば、矢琶羽はしきりに着物を叩いていた。木から降りてきたときも、先ほども・・・
(こいつ、もしかしてものすごい潔癖症なんじゃ・・・)
だとしたら、それをうまく利用できれば隙を作れるかもしれない。そして、炭治郎なら。自分とは違い、水の呼吸には多くの型がある。頭は固い彼だが今の炭治郎なら肩を組み合わせて使うことができるのではないか。
「炭治郎!!」
矢印をよけつつ、汐は炭治郎を引っ張って走り出した。突然のことに彼は驚いた表情を見せたが、汐から漂ってきたひらめきの匂いに胸がはねた。
汐は走りながら炭治郎の耳に作戦を伝える。作戦といっても大雑把なもので実際にどんな型を使うのかは炭治郎次第だ。
だが、もうこれしか方法はない。炭治郎は表情を硬くしたままうなずいた。
「何をしようとも無駄じゃ。この紅潔の矢からは逃れられん!」
矢琶羽の攻撃が再び二人を襲う。二人は左右に分かれかく乱するように動くが、矢印はそれを嘲笑うように二人をそれぞれ追っていく。
そしてその一つが汐と炭治郎のそれぞれの利き腕に巻き付いた。
「すべて儂の思う方向じゃ。腕がねじ切れるぞ」
彼の言う通り矢印はギリギリと二人の腕を締め付ける。二人の顔が一瞬青ざめたが、そのまま空中で矢印と同じ方向に回転する。
矢印が緩んだところで腕を抜き、ねじ切れることを回避した。