第153章 真実(後編)<弐>
「今までワダツミの子の痕跡がなかったのは、そういう事だったのですね」
「痕跡を残さないだけではありません。ウタカタノ花は泡となった残骸に、自らの一部を宿して飛び散り、そして降り立った場所で休眠状態に入る。それから再び目を覚まし、新たな宿主を探すのです。この悍ましい営みを、千年以上続けてきた」
だが、と、ワダツミの子は更につづけた。
「いくら宿主を変えても、鬼がいる限り自身の生存は危うい。そこで鬼の存在を脅威と認知した後は、人を焚きつけ鬼を弱らせるウタカタを生み出し、鬼狩りと共に行動するようになりました。しかしそれでも、鬼を駆逐することは、今現在も成し遂げられていない」
その言葉に、宇髄と蜜璃はぐうの音も出なかった。
居心地の悪い沈黙が辺りを包んだ。その時だった。
「なあおい、ちょっと待てよ」
宇髄の声が、沈黙を破った。
「お前はさっき『これを千年以上続けてきた』と言ったが、何でそんなことがわかるんだ?人とは異なるとはいえ、ワダツミの子は鬼じゃあねえから不死ってわけでもないだろう。現にさっき、ワダツミの子の死に方を俺達に教えたばかりだろうが」
宇髄の指摘はもっともだった。今はワダツミのことは言え、汐の身体は齢十六ほど。それほど永い間肉体を保つことは不可能だ。