第151章 真実(前編)<肆>
汐は困惑する隠に礼を言うと、すぐさま一人屋敷にに戻った。
既に日は傾き始め、夜の気配が近づいている。
「・・・・」
汐は一人、広間で佇んでいたが――
「うわああああああああああああああ!!!!!」
――突如、大声を上げながら周りのものを薙ぎ払った。
物が落ちる大きな音が広間中に響き渡り、何もなかった床がみるみるうちに物であふれて行く。
それは数秒、数分。時間の感覚すら、今の汐には分からなかった。
「ハァ・・・、ハァ・・・、ハァ・・・」
しばらく経った後、汐は息を切らしながら者が散乱した広間を見下ろしていた。
肩は大きく上下し、体中からは汗が吹き出していた。
「あはっ、あははは・・・・」
汐は左手て顔を覆いながら、乾いた笑い声を漏らした。
自分はワダツミの子としての真実を思い出した。今まで謎に包まれていたことが全て明らかになった。
自分が何者なのか、心の奥底では真実を知りたいとひそかに願っていた。
しかしそれは、自分が想像していたよりも、ずっとずっと恐ろしいものだった。
大海原汐として生きてきた、人間の存在を全て否定しかねないものだった。
汐は笑いながら、ずるずるとその場に座り込んだ。すると、膝のすぐ近くにひと際目を見くものが落ちていた。
それは以前、汐の故郷で見つけた、日輪刀の懐剣。
汐はしばらくそれを見つめていたが、手に取るとゆっくりと鞘から抜き放った。
そして、鈍く光る切っ先を、自らの喉に突き立てるようにして翳した。
窓の外で、鴉がはばたいたことに気づくこともなく・・・
「ごめんね・・・」
汐の力ない声が、誰もいない屋敷に木霊した・・・。