第148章 真実(前編)<壱>
翌日。
「おい、歌女」
朝餉が終わった後、汐は唐突に伊之助に呼び止められた。
「何よ。っていうか、今普通に返事しちゃったけれど、あんたいい加減に名前を覚えなさいよね」
汐が少し不機嫌そうに言うと、伊之助はそれに構うことなくこう言った。
「お前、なんか歌えよ」
「はあ?何よ藪から棒に・・・。っていうか、それが人にものを頼む態度なの?」
顔をしかめて言い返せば、伊之助はそんなこと関係ないと言わんばかりにまくし立てた。
「お前の歌を聴いてると、なんか知らねぇけど腹の中のもやもやしたもんが全部出てすっきりすんだよ」
「あたしの歌を下剤みたいに言わないで!!」
伊之助の言葉に憤慨した汐は、顔を赤くして怒鳴り返した。
「なんだなんだ。お前等何を騒いでいるんだ?」
すると、その騒ぎを聞きつけて村田達が、どやどやとやってきた。
伊之助は村田達の方に顔を向けると、汐を指さした。
「おいお前等。こいつの歌を聴くとすっきりすんぞ!」
伊之助の言葉に、村田達は怪訝そうな顔で二人を交互に見た。