第145章 本音<弐>
「君には以前に見せたと思うが、ここでは身体の中心を鍛える訓練を行う。だが、これらの事は全て強制ではない。君が辛く続けることができなくなったと感じたら、いつでもやめてもいい」
「ありがとう。でも、その心配は無用よ。あたし、逃げる事って大嫌いなの。まあ、時には逃げることも必要なんだろうけれど、今は逃げちゃいけないときだって分かっているから」
汐の迷いない言葉に、悲鳴嶼は驚いたように目を見張った。
「さて、修業を始めようか・・・ん?」
汐がそう言って服を脱ごうとしたとき、足元に何かが落ちているのが目に入った。よく見ればそれは、気を失った善逸だった。
「悲鳴嶼さーん!ここに善逸の死体があるんだけど、どうするの?」
汐が言うと、悲鳴嶼を含めたその場にいた全員がぎょっとして汐を見た。
「本当に死んでしまっているのか?」
「えーっと、あ、息してる。気絶しているみたい」
「なら、川につけなさい」
悲鳴嶼は数珠をかき鳴らしながら、静かにそう言った。
汐は足元に横たわる善逸の腕を掴むと、そのまま身体を回転させ近くの川に思い切り投げ込んだ。
「なんで投げるんだ――ッ!!」
その様子を見ていた他の隊士達が、思わず突っ込みの大声を上げた。
「ぎゃああああ!!つべでえええぶわわああ!!!」
善逸は世にも奇妙な叫び声を上げながら飛び上がり、凄まじい速さで汐に詰め寄ってきた。
「ひ、ひ、酷すぎるよ汐ちゃん!!俺ばっかり何でこんな扱いなの!?」
善逸は顔中からありとあらゆる汁を飛ばしながら叫ぶが、川があまりにも冷たかったのか、すぐさま汐から離れて岩に張り付いた。
「あったけぇ・・・、あったけぇよ・・・、うわああん!」
善逸は岩に縋りながら泣き叫び、それを見た汐はげんなりした表情でため息をついた。