第145章 本音<弐>
汐は翌日まで、炭治郎と共に過ごした。柱稽古が始まってから、汐と炭治郎は数える程しか会話をしていない。
そのせいか、二人の会話は深夜まで続いた。
翌朝。目が覚めてしまった炭治郎は、汐のいる病室へ足を運んだ。
すると汐はもう起きており、炭治郎を見ると朗らかに笑った。
その時、炭治郎の鼻をあの果実のような匂いが掠めた。
(この匂いは・・・、やっぱり汐は、誰かに恋をして・・・)
「炭治郎?」
難しい顔をする炭治郎に、汐は怪訝そうな顔で尋ねた。すると炭治郎は、真剣な面持ちで汐の傍に座ると、視線を向けた。
「汐。お前に聞きたいことがあるんだ」
「え?何よ、改まって」
汐が首を捻っていると、炭治郎は一息ついた後口を開いた。
「お前、誰か好きな人がいるのか?」
炭治郎がそう尋ねた瞬間、あたりの空気が凍り付いた。
こめかみをひくつかせる汐に気づかないのか、炭治郎はつづけた。
「前からお前の匂いが気になっていたんだけれど、その正体がわかったんだ。もし、汐が本当に誰か好きな人がいるなら、応援してやりたいんだ。だから――」
しかし、炭治郎の言葉はそれ以上続けられることはなかった。その顔面に、汐の徹甲弾のような拳がめり込んだからだ。
骨が砕ける鈍い音と共に、炭治郎は鼻から真っ赤な放物線を放出しながら倒れこんだ。
流れ出た血が部屋中を染め、目の前は真っ赤な色に包まれた――。