第144章 本音<壱>
それは汐が初めて垣間見た、不死川実弥の本音の一部だった。その言葉を聞いた瞬間、汐は一つ悟った。
不死川実弥は玄弥を憎んでなどいない。ただ、その想いを伝えるのがとんでもなく下手だということを。
(なんだ、そうか)
汐は意を決して、声を張り上げた。
「だったら逃げずに向き合ってよ!!あたしみたいに、後悔する前に!!」
汐の言葉に、実弥の"目"が微かに揺れた。
「あたしは駄目だった!!気づいたときには手遅れだった!!いくら後悔しても、想いを伝えたくても、その人はもうこの世の何処にもいないの!!」
そう言う汐の声は、泣き叫んでいるようにも聞こえた。
「でもあんたは違う!!思いを伝えなきゃならない相手がこの世にいる!!まだ間に合うの!!あたしみたいな思いをする必要なんて、どこにもないのよ!!!」
実弥が拳を振り上げ、汐の守りに入った腕を穿とうとしたとき。
拳は汐の防御を崩すと、無防備になった汐の顔面に突き刺さった。
「!?」
汐の身体はそのまま吹き飛び、壁に叩きつけられた。
衝撃で埃が舞い、煙のように汐を隠す。
もうもうと立ち上る埃の中、実弥は呆然と汐の吹き飛んだ方向を見つめていた。