第138章 千里の道も一歩から<参>
汐の動きが短時間で変わったのは、無一郎もすぐに気が付いた。初めて手合わせをしたはずなのに、もう自分の動きについてきている。
今まで見てきた隊士の中でも、確実に上位に入る程の上達の速さだった。
「汐、その調子だ。筋肉の弛緩と緊張をもっと滑らかに切り替えるんだ!」
汐は言われたとおりに身体の動きを変えた。すると、先ほどよりも筋肉の動きがわかるようになった。
そして
「やあっ!!」
汐のひときわ大きい声が響き渡ると同時に、無一郎の手から竹刀が弾き飛ばされた。
竹刀はそのまま放物線を描き、吸い込まれるように床に落ちる。
無一郎は呆然とした表情で、右手を見つめた後汐の顔を見て言った。
「君には本当に驚かされてばかりだな」
無一郎は満足そうに微笑むと、落ちた竹刀を拾って言った。
「動きも前よりずっと良くなったし、足腰の連動もきちんとできてるね。うん、合格だよ」
「本当!?じゃあ・・・」
「少し休んだら次の柱の所へ行っていいよ」
そう言って笑う無一郎だが、心なしか少し寂しそうな気がした。
「あ、あの・・・」
そんな中、二人の背後からおずおずと他の隊士達が声を掛けてきた。
「何?」
「あの、そろそろ俺たちも・・・。もう二週間近くいるので・・・」
だが、隊士がそう言った瞬間無一郎の表情が一変した。
「は?何言ってるの?君たちは駄目だよ。素振りが終わったなら、汐みたいに打ち込み台が壊れるまで打ち込み稽古しなよ」
汐とは全く異なる冷たい言葉に、隊士達は真っ青になり俯いた。
(あ、こういうところは変わってないのね。なんか安心したわ)
そんな無一郎を見て、汐は何故か安堵するのだった。