第122章 招かれざる客<壱>
人形との訓練で、汐と炭治郎は新たな力に目覚めた。
汐は相手の隙の位置を視覚的に捉えることができる【青の|路《みち》】。炭治郎は匂いにより相手が次に狙ってくる場所がわかる【動作予知能力】。
二人共死に近しい経験をしたことで得た能力であり、柱よりも反射や反応が遅い二人が彼らに匹敵する動きをするための強力な武器となる。
その日も小鉄を監視する汐を加え、炭治郎は人形を使っての特訓にいそしんでいた。
「行けぇ、炭治郎!やっちまえーっ!!」
汐の声援が飛ぶ中、炭治郎は全身の神経を研ぎ澄ませながら刀を振るっていた。
(よし、よし!!わかるぞ動きが!!前よりもずっとよくわかる!!)
炭治郎は最初は目で追うこともやっとだった人形の動きが、今や細部までしっかり見えるようになった。
(体力も戻ってついていけてる!!そして何より、汐が傍にいる!!)
汐の声援が炭治郎の身体に熱を持たせ、力をみなぎらせた。
(よし、入る!!渾身の一撃・・・)
人形の大ぶりの攻撃を、炭治郎は身体を捻って飛び上がりながら躱し、そのまま人形の首筋に刃を向けた。
だが、刃が届く寸前に炭治郎は思い出した。この人形は老朽化と損傷が激しく、もしも自分の攻撃が当たったら壊れてしまうかもしれない。
「斬ってーーー!!!」
しかしそれを見抜いた小鉄が、全身全霊で叫んだ。
「壊れてもいい!!絶対俺が直すから!!」
小鉄は心の中で炭治郎の人の好さを危惧した。大事な局面で躊躇ってしまうことを。
けれど、だからこそ。そんな彼だからこそ。小鉄は炭治郎に死んでほしくないと思った。強く、願った。
そしてその願いが通じたのか。炭治郎の刀が人形の首のあたりに綺麗に入った。
「入った!!」
汐が思わず叫ぶと、炭治郎はその勢いのまま地面に尻を思い切り叩きつけてしまった。
そして持っていた借り物の刀も、役目を終えるかのように真っ二つに折れた。