第5章 王都王宮
ルシエト様に上げさせられた顔。
私の目の前には、
見慣れているはずのルシエト様の夜空の瞳が真近にあった。
(ひ…ひゃっ……)
男性の顔がこんなにも近くにあるのは初めてで、恥ずかしくて、慌てて後退りしてしまった。
「おい。逃げるんじゃない」
後退ったのに、また一歩詰められる。
「💢お前は、俺のモノのくせに、勝手をするのか?
逃げるならと言った」
眉間を寄せて、少し怖い顔で私を見るルシエト様。
長い文章はまだよく解らないけれど、
何度も言われている言葉は、聞き取れるようになった。
『俺のモノ』と言った。
(そうだ、私、この人の奴隷なんだった…)
この王宮に奴隷として連れて来られ、
まだ半月、もう半月……
嫌だと思いつつも、少しずつエジプトと
この王宮、ここの暮らしに慣れてきていた。