第5章 10月14日
『アキ、私はそれなりに生きてきたがコレは初めてみるよ。とても、美しい…。』
小さい細めの小瓶にオレンジ色と白色が交互に詰められていて光に当てるとキラキラしていた。
『これはキンモクセイのモイストポプリです。少し乾燥させたキンモクセイと塩を使ってます。よければ、蓋を開けて香りを嗅いでみてください』
『あぁ…キンモクセイのいい香りがするね。この香りを嗅ぐとあの時のことを思い出すよ』
アキの思いが伝わり頬を緩ませる。
『はい、実はあの時のことをずっと覚えていてほしくて…私が傍にいることも…』
『あぁ、忘れるわけがない。君が泣きじゃくっていたこともだな』
『だ、団長!意地悪なこと言わないでください!』
思い出しただけでも恥ずかしいですと赤くなった顔を手で隠す。
エルヴィンは笑いながらすまないとアキの手を外した。
『こんな特別な贈り物は初めてだ。アキありがとう。こんなに大量の塩を用意するのは中々高価だったのではないか?』
『いいんです。エルヴィン団長が喜んで頂けるならお金なんか気にしませんよ』
『また私も何かお返しをするよ』
『…壁外調査で私が生きてたらお願いしますね』
モイストポプリを持っているエルヴィンの手を両手で握りアキは自分の口元に寄せる。
エルヴィンの誕生日でもあり、壁外調査がある14日が間もなく訪れようとしていた。
『生きて帰還しよう、アキ。私は愛しているアキを置いて先に逝かない。そして君を逝かせはしない。この小瓶を胸のポケットに入れて私の力になってもらうよ』
エルヴィンはアキを抱きしめ、アキはお守りですと小さく呟いた。
0時。14日を迎えた。
『…エルヴィン団長。誕生日おめでとうございます。私を選んでくれてありがとうございます。私の初恋の人…愛してます』
『あぁ、私こそありがとう。これからもずっとアキを愛し続けるよ。君の贈り物に誓おう』
永遠の約束。
別れの言葉じゃない、2人は必ず生き残る。
言葉にしなくても2人は口付けで感じとっていた。
~Fin~