第3章 巳早からのオビ
巳早事件からしばらく経って
ある視察の際色々やらかしたゼンは
誰とは言わないがぐちぐちと怒られ
反省を態度で示すと公言した後
もう何日も篭もりっきりで
執務に勤しんでいた
寝る間も惜しんで書類に向かうゼン
目の下にはくっきりと隈が浮かび
オーラは黒く、部屋の空気まで淀むよう
と言うより実際淀んでいる
これにはミツヒデも木々も困り顔で
かと言ってまだ見習いで信頼の薄い私の言う事なんか
聞く訳もなく
どうしたものかと頭を悩ませていた
「どうしたんですかさや殿」
『あーうん。大丈夫、大丈夫』
朝稽古の途中、近くにいた兵士に心配されてしまった
剣を軽く振り鞘に戻す
ゼンが調子悪いと私までおかしくなるみたい
もう気持ちだけは立派な側近だなと
思わず心の中で苦笑いをする
『私、今日はもうあがるね』
「はい、お疲れ様でした」
律儀に一礼する兵に手を振り、ゼンの執務室へ急ぐ為
廊下を早歩きで歩く
その時
城の屋上にちらりと誰かの影が見えた気がした
『ん?』
見えたと言っても
黒い影のようなもので
気のせいかと思いつつも
やっぱり不思議に思ってもう一度そこを見つめるが
もう人影はない
まさか、ね…
淡い期待を打ち払うように
さやはなるべく上を見ないで
歩くスピードを早めた
(あっぶな…意外と目がいい人もいるもんだね
…ありゃバレたかな)
*
そして昼過ぎ
見兼ねたミツヒデが白雪を呼んだとの事で
門まで迎えに出ていった
さやはその間忙しなくミツヒデの代わりに
あっちへこっちへ動き回り
白雪が上手くゼンを眠らせてくれたお陰で
やっと一息つけた
ゼンの傍で本を読み耽る白雪に
持ってきた紅茶とお茶菓子を差し出す
『白雪、頑張ってるね』
「ありがとう
いや、まだまだだよ!
早くさやに追いつかないとね!」
紅茶を受け取りカップを傾ける白雪は
1口飲むと力こぶを作るように腕を持ち上げた
変わらないな白雪は
よしよしと子供にするみたいに撫でてやると
嫌がりもせず笑った