第3章 The world is mixed
「どうしたの?カナ」
「ちょいとこっちで物音してたから様子見に来ただけだよ」
扉がコンコンとノックされた。次の瞬間、隣にいたミストガンは風のように去っていった。音の主はノエルにとって旧知の仲であるカナであったようで珍しく畏まった表情で入ってきたかと思えば、ミストガンが移動した際に発生した風で少し散乱している部屋を見渡してニヤリと笑いノエルの肩をポンと叩く。
「男でも入れてた?」
「…違う」
「お姉さんに嘘ついても無駄よ。さっさと白状しなさい」
その笑顔の意味はこれかとノエルは溜息をつく。あながち間違いではないが雰囲気は客観的に見てもそうには見えないほど冷えきっていた。
「…もう。ていうかお姉さんって…」
「私の方がセ・ン・パ・イ。だからお姉さん。オーケー?」
年齢的にはノエルよりも下であるが、入った時期は2年前であるためカナは立派な先輩にあたる。最もカナは6歳の時にはもう入団している相当な古株で、大体の人間が後輩になるのだが。
「…で、どうなの?実際」
大丈夫かと聞いてくるカナに茶化している様子は無く本気で心配しているため何ともないと返せばカナはほっと息をつき、
「何かあったら私がラクサスに言わなきゃいけないんだからちゃんとしなさいよ」
「カナ!!」
と言い残して出ていく。訂正しなければと出ていけば、ちょうどラクサスと鉢合わせする形となった。あからさまに眉間にシワを寄せる姿にノエルは俯く。
カナはもうカウンターで貰っていたジョッキの酒を飲み干して「何してんの!」と喚く。ビスカとアイザックよりもタチが悪い。くっつくなら早くくっつけと思うし、苦しいなら早く想うのを辞めろと忠告したいのだ、本当は。
「…何か用?」
口を固く結んだまま喋らないラクサスの態度に耐えかねてノエルはおずおずと尋ねれば、何かじゃないだろうといった風に眉を上げてラクサスは口を開いた。
「誰か来てただろ?魔力が残ってる」
「エルザも来たし、さっきもカナがいたわよ」
「…そんなこと言ってるんじゃねぇよ。分かるだろ?」
「分かんないよ」
それは分かってる奴が言う言葉だとラクサスが声を荒げれば、先程とは逆にノエルが口を固く閉じる。あちゃーとカナは額に手を当て机に突っ伏した。お互いの想いを伝えきっていないからこその悲劇だった。
