第2章 Re:birth
しばらくするとマカロフよりも少し背が高いくらいの老婆が中に入ってきた。
「医務室を出て左隣の部屋にシャワールームがある。まずそこでその汚い身体を洗ってきな」
そう言って彼女にポイと衣類諸々を投げると老婆は部屋を出ていった。
大人しく老婆の言う事に従って隣の部屋へと向かい、シャワーを浴びてバスタブに浸かる。何ヶ月ぶりかのお風呂に自然とまた涙が溢れてきた。あれほどシャワーで流したと思った泥がバスタブのお湯をまた濁らせ、もう一度身体を洗い直す。1時間程かけて念入りに洗い、渡された白の簡素なワンピースに身を包み外に出た。
「長かったからシャワーの使い方がわからないか死んでるのかと思ったよ。おや、あんた綺麗な顔してるじゃないか」
「ありがとうございます、お婆さん」
「お婆さんじゃあない、ヒルダと呼びな」
お婆さんと呼んだ彼女の頭をチョップし訂正した後ヒルダは彼女を医務室にまた向かわせる。中には先ほどと同じようにラクサスと、マカロフが座っていた。
開いた扉から彼女が入ってくると、その姿の変わりようにマカロフは目を見開きラクサスは固まった。
「あの真っ茶色な布の中身がこんなべっぴんさんとはな。良かったな、ラクサス」
「うっせぇな、じーじ」
しばらく動かなかったラクサスをニヤニヤと笑いからかうマカロフの様子にラクサスは苦虫を噛み潰したような顔をした。本題に戻す為にマカロフは1つこほんと咳をし、真剣な顔になった。
「ラクサスが聞いたようじゃがもう一度聞かせて欲しい。お前さんの名前は?」
長い沈黙。痺れを切らして口を開こうとするラクサスを制しマカロフはひたすら待った。重い空気が流れていく中、意を決したように彼女は口を開いた。
「…名前はありません」
「名前が無い?」
「…正確には名前を捨てました。だから名前が無いんです」
それは不便じゃのうと以前ラクサスがマカロフにハサミがないか聞いた時の様に軽い返答だった。言った彼女も驚いたのか目をまるまるとさせ、しばしば目を瞬かせる。しばらくすると重い雰囲気だったのが紙のように軽く明るくなっていた。