第57章 なんかあったら言えよ
本人は気づいていないかもしれないが、時々小さなため息
目や肩はいつもより下がっている
無理…しているな、既に
「紫苑、それ終わったら上に来てくださいね」
「え?あ、うん」
紫苑が好きなアールグレイでも淹れておいてあげよう
疲労回復の効果なんかもあるらしいから
丁度良い色が出たかなってところで、扉の向こうから声をかけられる
「喜助さん、入るよ?」
「どうぞ」
ゆっくりと襖を開けた紫苑は、淹れたての紅茶を見て少しだけ目を輝かせた
「喜助さんが、淹れてくれたの?ありがとう」
「熱いのは平気でしょう?」
うんと頷き、早速それを口にする
「美味し」
「良かった」
紫苑がコトンとカップを置いて喜助のほうを見ると、ふわっと頭に大きな手が乗せられた
「よく、頑張りましたね」
「……ぁ」
自分の瞳から一筋、ごく自然に溢れだした涙
「おいで」
両手を広げられると同時に飛び込む
大好きな喜助さん
大好きな匂い
「ちょっと、疲れただけなの…」
「…辛かったり、耐えられなくなりそうだったら、いつでもボクを頼っていいんスからね。どんな小さなことだっていい。いつだって電話かけてくれてもいいんスよ」
安心する
心が安定していく
「やっぱり喜助さんは、私の精神安定剤だね」
吐き出せる場所は、此処にあった
「光栄っス」
「もう少しこのままで居てもいい?」
「可愛いこと言いますね」
喜助は紫苑を抱き締める手に、力を込めた
心が軽くなる
暗闇から連れ出してくれるのは、いつもこの人だ
「黒崎サンのことは、ボクに任せてくださいね」
「聞いたの?…あの、手荒なことは」
「やだなァ、しませんよ。それより…」
そして突然、喜助さんから提案された
「旅行?」
「そっス。紫苑の誕生日に。ちょっと寒いところなんスけど、どうしても連れて行きたいところがあって」
ひよ里サンが店に出てくれるという約束はしたし、その他もろもろ計画は完璧だ
「嬉しい!ありがとう!」
喜ぶ紫苑に、笑顔に心がホッとした
「だから元気出してくださいね」
「うん、ありがとう」
さてと、黒崎サン
どうしてくれましょうかねぇ