第55章  俺と付き合ってくれねぇか？

雨粒が紫苑の頭に跳ねる


｢雨…｣


突如振りだした雨はすぐに激しくなり、紫苑はシャッターの閉まった店先の軒下に避難した


｢傘持ってないよ…｣


空が暗い

しばらくやみそうにない空を見上げて、ため息をついた

傘を買っていこうか

でも売っているであろうコンビニまでも、それなりに距離がある

喜助さんに迎えに…駄目だ

今はお客様の対応中だろう

止むまで待つしかないのか

琴乃に連絡してみようかな…


｢紫苑？｣


その声のするほうへ紫苑は顔を向けた


｢黒崎くん｣

｢傘、無いのか？｣


学校帰りだろう彼は、制服姿で大きな黒い傘をさして私の前に立った


｢あ、うん…急に降られちゃって｣

｢そっか…｣


一護は少し考えるように空を見上げてから、紫苑に少しだけ傘を傾けて


｢…入るか？｣

｢え…？や、いいよいいよ！私なら平気だから｣

｢だよな。浦原さんに、怒られちまうよな｣


一護は軒下に入り込み、傘をたたんだ


｢ちょっと話せるか？｣


いつも浦原さんが近くに居たから、柄にもなく緊張する

だけどこんなチャンス滅多にない…

平子はあんなこと言ってたけど、やっぱり決めるのは紫苑だと思うし、少しでも望みがあるなら…


｢今日は浦原さんは居ねぇのか？｣

｢一緒に買い物に来てたんだけど、私忘れ物しちゃったから先に帰ってもらったの。予約のお客さん居たし｣


気づかれてないだろうか…

黒崎くんが軒下に入った時、少しだけ、気づかれないくらいに少しだけ、距離をとった

怖くない、と言ったら嘘になる

話すのは全然平気

触れなければいい

大丈夫


｢仲良いんだな。喧嘩したりしないのか？｣

｢喧嘩かぁ…たまにはするけどね｣


少し雨に打たれたのだろう

髪や服がしっとり濡れている

そんな姿も紫苑だからだろうか、胸が鳴る


｢黒崎くんは、彼女とか居ないの？｣

｢いねぇよ｣

｢好きな子とかは？｣

｢……｣


そう言うと黒崎くんは黙り込んでしまった

好きな子がいるんだろうか

変なこと聞いちゃったかな…


｢あのさ…｣


一護が紫苑を見る

身長差で自然と上目遣いになる


｢紫苑て俺のこと、どう思ってる？｣