第53章 私を忘れないで…
「隊首会みたいじゃの」
「遅い!すぐに来いと言っただろう?」
「すみません…」
すぐ出たんだけどな…
現世から尸魂界に来るにはどうやったって、それなりの時間がかかる
何人かの隊長は同情の目を紫苑に向ける
「夜一様!言ってくださればお迎えに上がりましたのに!」
砕蜂は夜一に付き添われてきた紫苑を羨ましそうに見ている
「紫苑ちゃん、無事帰ってこれたんだねぇ」
京楽がヘラヘラと手を振る
「姿が見れて安心したよ」
浮竹が、優しい顔で笑いかける
紫苑は2人に笑顔で返した
「西園寺紫苑、前へ」
総隊長に言われた通り、紫苑は前に出る
私なんかやらかしたかな…
双極の丘で命に背いたことかな
緊張しかない…
「無事に過去から戻れたようじゃの。なによりじゃ」
「はい、おかげさまで」
「単刀直入に聞こう」
紫苑は身を引き締めた
「お主、隊長をやる気はないかの?」
…え?
周りの隊長たちもざわめく
どうやら今日の本題を聞いていなかったみたいだ
「でも他にも隊長候補が居るんだろう?山じい」
仮面の軍勢に隊長職復帰の申請をしていることを京楽は知っているが、まだ声を大にしては言えない為言葉を濁した
「それもまだ確定ではない。じゃから、それも含めて隊長になる者を選抜しているのじゃ。候補者は多いほうが良い」
山本は戸惑いの瞳を見せる紫苑に気づいた
「西園寺紫苑。無理に、とは言わぬ。覚悟ができなければ断るが良い」
最後の言葉に山本の優しさが隠れていると、彼と親交の深い隊長たちは思った
「あの…私」
全員が紫苑に注目した
紫苑は意を決して返事をした
…─
「浦原さん!紫苑は?!」
店の開店時間と同時にガラス戸が勢い良く開いた
「朝からなんスかもぉ…忙しいんスからアタシ」
帳簿からダルそうに目を離して、のらりくらりと店先に出る
「紫苑が戻ってきたって聞いて!」
「紫苑さんなら戻ってきたけど、もう出掛けたみたいだぜ」
面倒くさそうな店長の変わりに、柱に寄りかかったジン太が答えた