第39章 だって好きなんだもん
「西園寺さん?」
「な、なんでもないから!」
分かりやすく焦る紫苑を見ていたのは、そこにいた隊員だけではなかった
…─
「儂のかわゆい紫苑が、いよいよ嫁にいってしまうのか…」
「よ、夜一サン?!いつからそこに?」
「つい5分くらい前かのぅ」
普段使っている研究室の、更に奥
ボクしか入れないようにセキュリティを強化した部屋に、侵入者がいた
「全く、これだから隠密機動は…システム見直さないとっスね」
お主の古巣じゃろ、と夜一は冷ややかな視線を送る
いや、ボクはそういうのじゃなかったんで
とため息混じり
「ハッ……!夜一サン、まさか見てないっスよね?」
「5分もいれば充分じゃ」
「絶対!絶対紫苑には言わないでくださいね!」
「紫苑、お主との結婚を妄想してたようじゃの」
ニヤニヤと夜一は喜助の反応を伺う
「夜一サンたら、どこまで盗み見てるんスか…」
「人聞きの悪い」
「幸せにしてあげたいんスよ…」
喜助はいくつかの試作の中のひとつを手に取り眺める
「もう紫苑と随分経つかの?」
「もうすぐ6年スかね」
「その時は儂も立ち会わせるんじゃぞ。紫苑の反応が楽しみじゃ」
「絶対嫌っス」
喜助は試作のひとつをまた弄り始めた
…─
"本当に…………なの……?"
"ごめん……"
目が覚めたら、泣いていた
それが夢だったとすぐに分かった
ところどころ聞こえなくて、ところどころ不鮮明で、でも夢の中で泣いていたのは間違いなく私で、その相手は間違いなく、喜助さんだった
「紫苑?」
私にごめんと言った低い声が耳元で聞こえる
その声のほうに顔を向けると、喜助さんが心配そうに私の顔を覗きこんでいた
「どうしたの?怖い夢でも見た?」
寝転びながら私の頭を優しく撫でる喜助さんにひどく安心して、涙がドバーッと溢れてきて、返事をするのも忘れて喜助さんの胸にすがりついた
そんな日が、何日も続いた