第36章 私にもっと、力があったら…
第36章 私にもっと、力があったら…
「あーもうっ全然動かないんだけど!」
急に叫んだ琴乃を、その場にいた全員が一斉に見る
「どうしたの?琴乃」
「この伝令神機最近調子悪くて、全然動かないの!エラーばっかりだし!技局に新しいの頂戴って言ってるんだけど、予備は出払ってるし、時間かかるって!」
それは仕方ないと琴乃をなだめる
「まーいいや!紫苑そろそろ休憩しよー」
琴乃に誘われ縁側でお茶を飲む
紫苑は先日買ってきた苗木に水をあげている
「それなんの花?」
琴乃がうつ伏せになり頬杖をつきながら紫苑を見ている
「これは雪姫…白い薔薇が咲くんだー」
小さな苗木にまだ蕾らしい蕾はついていない
「紫苑の斬魄刀と同じ名前だね!」
「そう!こないだ見つけて思わず買っちゃったの」
「そうだ、今年は紫苑も隊のお花見来れそうだね!」
去年、入院していた病室にひよ里さんと桜の枝を切って持ってきたのはびっくりした
「夜桜いいよー。すっごい綺麗なの」
「琴乃は花より団子じゃないの?」
「ひっどーい」
…─
夕方になり定時を告げる鐘がそろそろ鳴りそうな頃
ポツリポツリと雨が降りだす
空はどんよりとしていて、遠くの空には雷を纏った雲がある
「嫌な天気っスね…」
その時流魂街に虚出現の一報が入った
「東流魂街にて虚出現!討伐に向かってください」
喜助がパソコンを見ながら状況を確認する
「琴乃サン、お願いできますか?」
「えーもう仕事終わるのにー」
心の中ではため息をつきながらも、腰の刀を持ち直す
「残業代弾んでよね」
「琴乃気をつけて…」
琴乃は流魂街に向かった
そこで定時を告げる鐘が鳴る
夜勤でないものは帰る準備をしている
紫苑ももちろん帰ってもいいのだが、席から動こうとしない
「紫苑?」
「うん…」
喜助はきょとんとした顔をして紫苑を見ている
「なんか…胸騒ぎがする…」