第33章 喜助さんの話しないで
第33章 喜助さんの話しないで
8月も半ばを過ぎた頃
まだまだ暑い日が続く
どこか遠くから、セミの鳴き声が聞こえてきて、このまま夏が終わらないんじゃないかとさえ思える
じわりと照りつける日差しの中、私は喜助さんに呼び出されて技術開発局にきていた
ここは何時来てもひんやりと涼しい
「あ、阿近」
入ってすぐに試験管を持った阿近に会う
「紫苑か、できてるぜ」
そう言って試験管を置く
「できてるって何が?」
手招きされて向かったのは奥の研究室
喜助さんがいつもいる部屋だ
ノックしようとしたら阿近がさっさと扉を開けた
「局長、紫苑来ましたよ」
その声に私のほうを見た喜助さんは
「どうぞ」
キョトンとしながら近づくと、隣に椅子を出してポンポンと、ここに座れと促される
「はいこれ」
差し出されたのはトレーにのせられた、2つの黒い小さな機械のようなもの
「何これ?」
「発信器っスよ」
「これが?小さいんだね」
ひとつを、手に取り上にかざして眺める
「張り付けるタイプと体に埋め込むタイプがあるんスけど…」
「埋め込む?」
張り付けるのはなんとなく想像がつく
けど埋め込むなんて、そんなことできるのかな
「体に埋め込むと、溶け込んで取り除けなくなります」
それは、永遠を意味していた
この体が朽ちるまで、喜助さんからは私の居場所がわかるし私からは喜助さんの居場所がわかる
「ちなみに、例えばボクが現世にいくと紫苑からはボクが現世にいることはわかりますが、現世のどこにいるかまでは分かりません。紫苑が現世に来れば分かるようにはなります。それは逆もまた然りです」
…─
「阿近、何の話してるの?あの2人」
「琴乃居たのか…お互いにつける発信器について話し合ってるみたいだぜ」
「ホンマにそんなもん付けるんか?アホちゃうか」
「ひよ里さん」
研究室の入り口では中の2人を見ながら琴乃、阿近、ひよ里が発信器について話していた
「おい、阿近。人の彼女呼び捨てにすんなや」
「真子!」
「平子隊長か、局長に敵わなくて紫苑から乗り換えたんすか?」
ゴツン─
「ってぇー……」