第30章 幸せを握りしめてるの
「平子隊長…」
「真子でエェ」
「え、いや、そんな急に…」
「ほんなら別に、ちょっとずつでえぇわ」
ほんま調子狂うわ
琴乃ってこんな乙女チックやったか?
「真子…」
「おま、急に呼ぶなやっ」
「そ、そっちが呼べって言ったんじゃないですか!」
「せやかてそんなすぐ呼ばれると思えへんやんけ」
平子隊長も意外と照れ屋なんだな
私、期待してもいいのかな…
「隊長ー、平子隊長ー!」
その時下のほうで平子を探す声がする
「アカン、惣右介や」
「早く戻ったほうがいいですよ」
「せやなァ」
それを合図に私も立ち上がる
「琴乃」
「はい?」
「気ィつけて帰るんやで」
こんな風に優しくされることなんて、滅多になかったからなんだかくすぐったい
平子隊長が下に降りたのを確認して、大きな息を吐いた
「言っちゃった…」
…─
「はぁ…よりによって二番隊って…どこが良いところなのよ。浦原隊長…」
新しい職場に憂鬱な足取りの凛音
空気はピリついているし、視線が痛いような…
でも自分から移動したいって言ったんだし、頑張るしかないか…
勇気を出して隊首室の扉をノックした
「本日付けで配属になりました。東園寺凛音です」
「おー入れ入れ」
明るい二番隊隊長の声にいくらか安心して、扉をあけた
「失礼しま……なんで居るの?」
そこには十二番隊にいるはずの幼なじみが立っていた
「なんじゃ聞いておらんかったのか」
「俺も二番隊に移動することにしたんだ」
「…なんで?」
「だって凛音、心細いだろ?」
涙が出そうだった
「なによ…私のこと置いてって、さっさと死神になったくせに…」
涙がこぼれそうになった頃、私の頭を優しく撫でる手
「うん、ごめんな…。俺、早く凛音のこと守れるようになりたくて、ちょっと焦ってたんだ」
「私のこと…?」
「そうだよ。だって、凛音のことは俺が守ってあげなきゃって、昔から言ってただろ?」
なによ、その笑顔…
反則…
「じゃあ…これからずっと一緒に居てくれる?」
「うん」
「もう置いて行ったりしない?」
「しないよ」
涙を袖で拭きながら、凛音は嬉しそうに笑った
それを夜一は微笑ましく見ていた