第28章 喜助さん…ごめんなさい
「喜助さん…ごめんなさい…」
そう謝ったら、喜助さんはいつも
「相変わらず泣き虫っスねぇ、紫苑は」
そう言ってフッと優しく笑って、私の頭を撫でてくれるの
そうこうやって、くしゃって…
「きすけ…さん……?」
「病室抜け出してきたんスか?フラフラじゃないっスか」
視界がぼやける中に、月の色を見た
「こんなにほっぺた冷たくして。春とはいえ夜はまだ冷えるんスから」
紫苑の頬を喜助の両手が優しく包む
じんわりとした温度が優しくて涙がポツリと頬を流れる
「卯ノ花隊長に叱られちゃいますよ」
そう言いながら自分の隊首羽織を紫苑に掛ける
その大きな胸に飛び込んで、力いっぱい抱きついた
「喜助さんごめんなさい、嫌いなんて言ってごめんなさい、ごめんなさい……ごめん……ね」
最後の方なんか言葉になってなかった
「いいっスよぉ、そんなの…」
私が謝ると、そんな風に軽く許してくれるの
「喜助さん、好きだよ……大好きだよ」
「ボクのこと、信じてくれるんですか?」
コクンと頷く紫苑
「琴乃から聞いたの。でも、喜助さんの口からちゃんと聞かせてほしい」
喜助さんは真っ直ぐ私の目を見て、話してくれた
それだけで、なんでも信じられる
「好きだよ、紫苑。紫苑以外の女の人なんて考えられないよ」
優しく笑う顔が大好きだった
頭を撫でる大きな手が大好きだった
唇に触れる柔らかい感触が大好きだった
「喜助さん……」
襟元を捕んで引き寄せる
唇が重なる
「消毒……」
「……狡いっスよ」
紫苑が、ボクを引き寄せてキスをした
こんなにも熱く、こんなにも胸の鼓動が早くなるのは、やっぱり紫苑だけだ…
「さ、そろそろ帰りましょ。バレちゃいますよ」
差し出した右手を小さな右手が掴む
引き起こされると、立ち上がると同時にフラつく
「大丈夫?ほら、背中のって」
ゆっくり喜助さんの大きな背中に体を預けると、大好きな匂いが鼻をくすぐる
星を見ながら、月を見ながら
喜助さんと歩く道は、幸せだった