第17章 きすけさん…いるよね?
琴乃は耳を塞ぎながら喜助の顔を見ないようにする
「別に怒ってはいないっスよ。琴乃サンにも怒るそれなりの理由があったんだろうし?ボクの知らない2人の絆みたいなのもあるんだろうし?でもあれっスよねぇ。怒るのはいいんスけど、何も今じゃなくてもいいっスよねぇ。紫苑ただでさえ最近喘息になって現世に行けなくなったり、男に襲われたりで落ち込んでいるのに何も今怒らなくてもねぇ?」
「隊長めっちゃ喋るじゃん!めちゃめちゃ怒ってるじゃん!」
息継ぎも程々に喜助は淡々と心の内を漏らした
焦る琴乃を気にも止めず、喜助の表情は段々と黒くなっていった
「それにしてもあの男…どうしてやりましょうかねぇ…」
「怖い!隊長なんか、ドス黒いオーラ出てますよ!それに今回のことは、元はと言えば隊長が原因じゃ…」
琴乃は余計なことを言った、と口を咄嗟に押さえた
恐る恐る喜助を見ると、こっちも向きもせず低い声で琴乃の名前を呼んだ
「…琴乃サン」
「は、はい!」
少し間を空けて、喜助は目を細めた
「ボクは自慢じゃないっスけど、今までたくさんの女の人を相手にしてきました」
「いや、滅茶苦茶自慢に聞こえる」
「だけどね、1人1人どんな顔だったかも、名前も覚えてない。正直、どうでも良かったんス」
うわ、サイテー…
「最低っスよね…」
え?聞こえた?
心の中で言ったはずなのに
「ボクにとったら、紫苑以外の女の人はどうだっていいんス」
「ベタ惚れ…」
「だけど、ボクの過去の行いのせいで…紫苑に辛い思いをさせてしまいました…」
ドス黒いオーラがいつの間にか消えて、少ししょげた顔がそこにあった
「さすがに少し、反省しました」
「少しなんだ」
「また紫苑を守れなかった…守れたはずなのに…守らなきゃいけなかったのに…」
かける言葉が見つからなかった
「ボクが傍に居て、いいんスかね…」
自信を無くしている隊長…珍しい
「紫苑には、隊長が必要ですよ…」
その返事に、喜助は優しく微笑んだ