第14章 珍しいっスね、喧嘩なんて
第14章 珍しいっスね、喧嘩なんて
ドンっ─
と曲がり角で誰かにぶつかった
「す、すみません」
「や、こっちこそごめん…」
すぐに離れようと体制を整えた
「あ、ちょっと待っ…」
「痛っ」
ピン、と引っ張られる髪
どうやら彼の首にかかっているチェーンに絡まってしまったようだ
「ごめん、俺のに絡まっちゃったみたいだね…」
「あ、いえ…私がちゃんと前見てなかったから…」
すぐ外すから、少し我慢して…と紫苑は大人しく言うことを聞く
短くなった髪が災いして、彼との距離が凄く近い…
可能な限り距離を取る
「ちょっと時間かかりそうだなぁ」
「すみません…」
「いいよいいよ。あ、俺は十一番隊七席のリョウ。君は?名前なんて言うの?」
「あ、えっと西園寺紫苑です。今年、十二番隊に入隊したばかりで…」
十一番隊というと、乱暴で血の気の多いイメージが強いけど、割と優しい感じの人も居るんだ
「そっか、隣の隊だね。新入隊員か。ウチの隊は男ばっかりだから、女の子羨ましいな」
少しずつだけど、髪がほどけてきている
「ごめん、ちょっと近づいてくれる?」
「わっ」
クッと腰を引かれて、リョウに抱きつく形になった紫苑
「もうちょっとだから…」
どうしよう…
仕方ないことだけど、こんなところ…喜助さんや他の人が見たら…
「西園寺さん良い匂いするね…」
「え、いやそんな…せ、先輩こそっ何かつけてます?」
さっきから香る匂いが、距離が近くなったことでさらに鮮明になった
「あ、うん。少しね」
早く終わらないかなぁ…
やっぱり他の人に、不可抗力とはいえ抱きつくような形になってるのは…
「よし、取れた!」
「あ、ありがとうございます!」
「隣だし、送っていこうか?」
「いえ、大丈夫です。失礼します」
紫苑は足早に立ち去った
「あれが西園寺紫苑ね…」
口角を上げたリョウの顔を、紫苑は知るよしもなかった