第1章 あなたと出会った月曜日
河合 美結 24歳、現在彼氏なし。
緑しかない田舎の方でごく普通に育てられ18で憧れの東京進出を果たす。ごく普通の学歴を経てごく普通の都内のメーカーに就職した。どこまでも普通の人生を歩んできた。
しいて秀でているものがあるとすれば整った可愛らしい容姿。幼少期からもてはやされる事には慣れており 回りが何でも助けてくれた。故に本人は大きな挫折も失敗も知らずに のらりくらりと生きてきた。
可愛ければある程度のことは上手くいくし許される、と甘えたモットーを持ってはいるが一応は社会人のいい大人。最低限の分別はわきまえているので表立っては言わないが 長いものには遠慮なく巻かれた方がいいと思う。努力や根性で何とかなるほど世の中は単純な構図ではない事を知っている。よく言えば協調性があり 悪く言えば個性がない、美結はどこにでもいる人間だった。
個性も資格もないのだから当然ではあるが給料は本当に安月給、大卒の初任給に毛が生えた程度であるから泣きたくなってしまう。とは言え、このご時世に2度のボーナスが出るのだからまだいい方なのだろうか。
嫌いな物は 眠気の強い月曜日、社内の愚痴しか言わない中間管理職の上司、サラリーマンの汚い私欲が思い切り現れる通勤時の満員電車と言った所か。そう言えば昔から芋虫の類も苦手だ。
好きな物なら沢山ある。流行りの洋服やアクセサリー、話題のデートスポット、各シーズンのイベントや飲み会。大学時代の友人達との赤裸々女子会や不定期開催されまくる合コンへの参加は美結のめくるめく日々の日課だった。
幼い頃からまずまずの恋愛好きだ。「いのち短し恋せよ乙女」とは密やかに自分のためにある言葉だと心の片隅に思う程、自身のキャラクター、表情、仕草、見せ方を重々承知しているので 狙った男は高確率で自分になびくのが常。そうでない場合ももちろんあるが それはそれで女として燃えるものがある。
彼氏が欲しいと思わない訳ではないが 作ろうと思えばすぐに出来るので それよりも今は恋の駆け引き、絶妙な匙加減の元に生まれるインスタントな恋ドラマの方が面白い。合格点を越える男に出逢えたら 生かさず殺さずのやりとりでキープをしておけばいい。
そんな普通でちょっとだけあざとい美結は、ある日謎でしかない事態に遭遇する。