第1章 〔蛇〕の異能力者
此の世には――昼を制する武装探偵社と、闇を制するポートマフィアが存在する。
此処・ヨコハマの異能力者は大抵、此のどちらかか異能特務課に在していることが多い。
だが、或る一人の異能力者は――どの集団にも属さず、尚且つ異能組織たちが手を伸ばしたくなるような力を持っていた。そして、明るく繁盛している昼にも闇深く銃声のする夜にも、異色を放ち、只一人居座っていた。
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此方、武装探偵社。
簡単な投影紙や白板などが会議用に置かれている、社の会議室。
其処に、異能特務課からの特別調査依頼の為の資料が幾つか束になっていた。何時もの様に髪を一つに纏めて、掛けている眼鏡のブリッジを上げた長身の男・国木田が今回の依頼内容の説明を行う。
此れもまた何時もの事だが、太宰は会議に参加してはいなかった。自殺愛好家である太宰は今日も今日とて、自殺場所や心中相手をふらふらと探しまわっているのだ。
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今回の依頼内容は平たく云えば『人捜しと街の守護』。
「此処数年間の間、此のヨコハマの地で見境の無い殺人が多発している事をご存知ですか」
国木田が資料片手に招集した皆に問いかけている。反応を見るに、具体的にはあまり知られてはいないようだった。
「ソイツは……遺体に何かに喰われたような痕があるってヤツの事かい」
その中でも与謝野女医が一番に反応した。
国木田は「はい、」と返す。
「政府の人間は、その事件が異能力者によって引き起こされているだろう、と睨んでいます。被害者や目撃者からの証言により、主犯となる異能力者は大きな蛇の形をした異能生命体を操る異能を持つことが判っています」
「それで僕らッてことですか」
谷崎が成る程、と納得する。
「そうだ。特務課からはその異能力者を捕え、此の事件による被害がこれ以上出ないようにしてほしい、とのことでした」
話の主旨が大まかに分かったところで、先程まで静かだった福沢が口を開けた。
「皆、よく聞け」
調査員の面々は体ごと視線を向け、黙って聞く。そのまま、刻々と福沢は続ける。
「今よりこの街を守る為、全力を尽くして仕事に取り掛かれ!」
「「はい!」」
福沢の一声に続いて、複数の声色が反響する。少年少女から青年まで、探偵社が調査員の其々は『ある異能力者』について調べ始めた。