第2章 おしおきの話
「…んぅ、はぁっ、ふっ…」
ノンは目に涙を溜め、抵抗するが、エレンの手によってそれは無意味なものとなる。
______もうダメ、足に力入んない。
ノンはずりっ、と足が崩れ、床にそのまま座ろうとしたが、間にあるエレンの脚は決してそれを許しはしない。
ノンはエレンに身を任すしか、ほかなかった。
何もかも諦めたその時、ノンがエレンの家に来る度に音がおかしいとツッコミをいれていたインターフォンが鳴った。
______リーンゴーン
「エレン、いるかい?僕だけど!入るよ!」
外から少年の甲高い声が聞こえて来た。
エレンはほんの一瞬、ノンの口内の舌を引っ込め、腕を押さえつける手を緩めた。
「……っ、」
ノンはその隙を見逃さず、エレンの胸を精一杯突き飛ばした。
エレンはその反動で床に尻餅をつくようにして、手をついた。
鞄をあわてて掴み、ノンは眉を寄せ、涙を溜めた目でエレンを一瞬だけ見ると、部屋を飛び出た。
「…エレン、ケーキ買ってき…わあっ!?」
突然、目の前でさっきと同じ甲高い声が聞こえたが、ノンはそれを見る余裕もなく、その少年にぶつかるようにして廊下を走り抜けた。
ガサッ、という音がして、少年が手に持っていた袋が床に落ちる。
少年が振り向いた時にはもうノンの背中は見当たらなかった。
「……な、なに?誰今の…」
少年は唖然としてノンが走っていった方向を見つめる。
「…………」
そんな少年の質問には答えず、エレンは考えるようにして、頭をかいた。
「…っていうか、エレンなんで座ってるの?」
少年はエレンを見て、驚いたように口を開いた。そして、中身を心配しながら先程落ちた袋を手に取り、微かに少年の金髪が揺れた。
「…………」
エレンはそんな少年を一瞥して、はぁ、と盛大なため息をつき、また頭をかく。
その瞳は少年でもなく、どこか遠いところを見ているかのように伏せられている。
「……さあな…」
何処か、後悔したかのような声が無駄に広い部屋に響いた。