第2章 廃れた島
相変わらず相手はフードを目深くかぶっており、顔が見えない。だがローはひとまず取り押さえることに成功したわけである。これからまた戦い始めるほど体力もないように見える。
しかし、ローは違和感を感じていた。
この者の戦い方には普段相手にしている海兵や海賊とは違う、何かがあった。それは技術面の話ではない。何かが変だ、この違和感の正体は何なのか...岩にもたれかかった相手を見下ろしながら、ローは思案した。
剣さばきが特別上手いわけでもない。気配も消しきれていない。戦いにはあまり慣れていないのだろう。なら一体___
「音、か...?」
一つの考えがローの頭に浮かんだ。
人が動けば必ず音が出る。足音だったり、服が擦れる音だったり、呼吸音だったり。それがこの相手からは全くしないのだ。
思えば、この者に気付いた要因は音ではなく気配だった。剣を交えた時にも、相手の刃が鬼哭に当たる音はしなかった。隙をついて姿を見失った時も、一切音がしなかった。この者からは出るはずの音がないのだ。
"そいつは音もなく現れたと言ってたぜ。文字通り、音もなくな!"
ローの頭に酒場の男の話が蘇る。
間違いない。違和感の正体は音、そしてこの者こそがフロアズルを売る"仙人"だ。
すると、ぐったりしていた相手がピクリと動いた。目を覚ましたのだ。ふらふらした動きで立ち上がろうとしたが、真横に刺された鬼哭に気づき、動きを止めた。
「今の自分の状況がわかってんなら、これ以上抵抗しないことだな」
ローは冷めた声で言いながら、刺していた鬼哭に手をかけ岩から抜き取る。そこからパラパラと岩の破片が落ちた。
「お前..."仙人"だろう」
その名を出すと、相手はあからさまにビクリと肩を震わせた。フードで隠れた顔を、さらにローから背けて下げる。
「鬱陶しいそれを外せ」
頑なな態度に痺れを切らし、ローはそのフードに手をかけた。相手はとっさに身をよじったが、ローによって乱暴にフードを上げられた。
すると、フードの中にしまわれていたクセのない茶髪がするりと落ちてくる。少し目にかかる前髪から見える目は琥珀色に美しく輝き、滑らかな肌は日光に当たり優しく艶めく。
「...っ!?」
ローは驚いて目を見張る。
__ゆっくりと顔を上げた相手は、"仙人"とは程遠い、少女だった。
.