第2章 廃れた島
「なあ、一つ聞きてェんだが...いいか?」
出てきたビールに口をつけつつ、ローは店主へ尋ねた。
少々いかつい見た目の店主は、忙しなくグラスを拭いたりカクテルを作ったりしている。
「あぁ、なんだい兄ちゃん」
「あんたフロアズルという花を...知ってるか?」
「フロアズル?」
店主は首を傾げた。
「なんだかよく知らねェが...この島には植物なんてもんは生えてねェぞ、何年も前からな。俺がこの島に来た頃にはもう海賊たちがウロウロしてたぜ?」
「そうか...」
本当に花一つ咲かない島なのだろうか。気候も気温も植物が育つに困らないし、岩肌が多いがそこに生息する植物もあるだろう。
「なぜ植物が育たなくなったか、理由を知ってるか?」
「そうだなぁ〜...聞いた話だが...
どっかの化学者が作った毒ガスがここに撒かれたらしい。俺もよく知らんが、それが原因でこの島の動物、植物みんな死んだんだとよ...」
「この島の人間はどうしたんだ」
「さぁな。全員死んだんじゃねェのか?」
ローはビールをぐっと喉に流し込んだ。
この店主からは大した情報は得られなさそうだ、と見切りをつける。前からここに移り住んだ人間でもなさそうだし、海賊が集まるから商売目的でといった形だろう。
すると、ジョッキに残っていたビールを全て飲みきり、料金を置いて去ろうとしたローに、一人の男が話しかけてきた。
「おい、あんた...トラファルガー・ローじゃねぇか!!」
「えっ!?」
驚いた店主は顔を上げ、再度ローを見た。
「その顔どっかで見たことあると思ったんだよ〜、まさか死の外科医ここにいるとはな!」
酔った顔で馴れ馴れしく背中を叩いてくる男に、ローは不快感を示した。
もともと人に体を触られるのは好きじゃない。まして赤の他人なんて最悪だ。
その手を乱暴に払い除けて、ローは男を睨んだ。
帽子で影のできた鋭い瞳が男を容赦なく突き刺す。情けのかけらも感じられない目は、酒で赤くなった男の顔を青ざめさせるには十分だった。
「い、いや...そのっ、聞こえたんだ!あんたがフロアズルの事を話してるの!」
必死の弁解、と言わんばかりに男は焦った口調で喋りだす。
「あ?」
「確かにこの島に植物はねぇよ、だがな...
フロアズルを売るやつはいるのさ」