第6章 距離
「………やっと起きたのね」
薔さまにつれられてリビングへと続くきらびやかなドアをくぐれば。
お食事を終えられたご様子で、お母様がこちらを睨んだ。
「大丈夫だよ、華」
ビクン、と肩を揺らすあたしを守るように薔さまはあたしの前へと、足を進めて。
同じようにお母様を睨み返したのです。
「……っ、薔さま」
「薔に抱かれてお帰りだったとか、華さん。ずいぶんお食事に来られたの時間かかってましたけど、やっと起床されたのね」
「……ご、めんなさい」
「華には勉強を教えていただけですよ、お母様。華は何も謝ることなどしてないはずですが?」
「ほんとにそう?華さん」
ビクン。
と、反応して。
薔さまの肩を掴む。
昔からお母様には嫌われていて。
たぶんあたしが実の娘じゃないからなのですが、昔からほんと、怖い方なのです。
「華は僕の婚約者です。例え母親でもそのような態度は失礼に値しますよ?」
「婚約?」
「姫月家との結婚なら、文句はないでしょう?だいたい、華が姫月の総裁に泣きつけば鷹司(うち)なんて簡単に捻り潰されてしまうことくらい、あなたもご存知ですよね?」
「華さんは、姫月に捨てられてウチに来たのですよ」
「そうですか?華が姫月を名乗ってるのは、なぜです?」
「薔さま、もう、いいです。お母様、すみません」
駄目。
薔さまとお母様の仲がこれ以上険悪になるのは、いけない。
あたしが原因なんだから。
あたしが、泣いてばかりいるからなんだわ。
「薔さま」
促して、席に着けば。
お母様はすぐに席をお立ちになってしまいました。
「ごめんなさい、薔さま」
「大丈夫だよ。華はちゃんと僕が守るから」
ちゅ、て。
額に堂々と送られたキス、は。
あたしだけじゃなく、回りにいるお手伝いの方たちの体温までも上げてしまったようです。
「…………」
恥ずかしくて、顔があげられません。