第1章 お嬢様の好きな人
「華」
「はい、薔さま」
「授業中何考えてたの?」
「え」
「僕の授業中、全然集中できてなかったよね?僕教えるの下手?僕の授業はつまらない?」
「!!」
大変です。
あたしが薔さまに見惚れていたばっかりに、薔さまにあらぬ誤解を生じてしまいました。
「違うんです。薔さまの授業はとても丁寧で分かりやすいです!お友達もおっしゃっていました」
「そう?」
「ええ、もちろんです」
「なら、なんで?」
「それは…」
言っていいの?
授業中見惚れてたなんて言ったら、幻滅されてしまうかしら。
上品さも、優雅さも、そんなの欠片だってありません。
薔さまが好む女性とはかけ離れてしまいます。
「華?」
そんな風に見つめられたら、知らずに目の奥が熱くなってくる。
泣き虫は嫌いだよ、って、言われたばかりなのに。
また、嫌われてしまう。
駄目。
泣いちゃ、駄目です。
「隠し事するの?」
「え」
はぁー、と、深いため息と一緒に椅子が軋んで。
目の前に影が出来た。
すぐに薔さまの気配を感じて顔をあげれば。
「僕に隠し事するなんて悪い子には、お仕置きが必要だよね?」
「ぇ」
にっこりと微笑む天使のような薔さまが、そこにはたっていたのです。