第4章 忍び寄る魔の手
ドーン…という鈍い音と砂埃が舞ったとき、私は何が起きたのか分からなかった。ただ、分かったのは、目の前にいる化け物が消ちゃんをうつ伏せにして馬乗りになっているということ…そしてそのまわりに広がる鮮血の赤…
「教えてやるよ、イレイザーヘッド…そいつが、対平和の象徴改人“脳無”…」
『ギャォオ…』
不気味な声を上げる、脳無と呼ばれたその化け物は、もはや人からはかけ離れ、心も感情も、表情すらない…作られた化け物の他になかった。
ーーー助けなきゃ…!
頭では分かっているのに、足がすくんで動かない。こいつから溢れ出ていた禍々しい気配は、まさかこいつのせいだったの?私の体がガクガクと震える。動けないやつ、と認識したのか脳無と呼ばれる化け物は、私を見るなり消ちゃんの腕を握る。そして…
ゴキィ…!
「うぁああっーー…!!!!」
「先生……!!」
「個性を消せる…素敵だけど、なんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまり、ただの無個性だもの」
「くっ…!」
脳無の押さえつける力が僅かに緩んだのを見計らった消ちゃんが、一瞬顔を上げて個性を発動した。けど、それを脳無は許さなかった。まるで小枝を踏むかのように今度は消ちゃんの左腕を踏みつけた。同時に骨の砕ける音が響く。
「ぐぁああ…!!!」
やめて…もう、これ以上…!!
容赦しない脳無は、消ちゃんの頭を鷲掴みにしたかと思うと、またそのまま床に叩きつける。
「死柄木弔…」
「黒霧…13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして…1名逃げられました。」
1人逃げられた…?ってことは、飯田くん、抜け出せたんだ!!!
「黒霧…お前…お前がワープじゃなかったら粉々にしたよ。さすがに何十人のプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ…あーあ…今回はゲームオーバーだ…帰ろっか」
「え……!!!」
帰るって…たしかに今そう言ったの…!?逆に気味が悪い…これだけの事をしておいてあっさり引き下がるなんて。オールマイト先生を殺しに来たんじゃないの…?これで帰ったら、雄英の危機意識が高まるだけ…なにを考えてるの!?
「…けども、その前に平和の象徴としての矜恃を少しでも…へし折って帰ろう!!!」
「ーーーーっ!!!!」