第2章 波乱の初日
「.....ファスナー開いてるぞ」
「きゃあっ!?もう、消ちゃんのエッチ!!!」
こんなやり取りなんて日常茶飯事。30のおっさんと15の少女にとっては普通だ。しかし2人は兄弟ではない。親子でも...ましてや恋人同士でも。さくらが相澤消太と同じ屋根の下で暮らしているのには訳があるが、その話はまた後にヒーロー科のクラスメイトたちに明かされる。
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時計が7時半をさした頃、消太とさくらは家を出た。
「ほらよ」
消太がさくらに何かを投げつけ、それを咄嗟に受け止めた。手の中にあったのは鍵だった。
「あ、家の鍵...?」
「スペアキーだ...これから帰ってくる時間もズレてくる。おれより早く帰ってきたら先に飯食ってろ。」
「...わかった!じゃあもし泊まり込みとか帰りが遅くなりそうならLINEちょうだい?」
「わかった」
消太は短く返事をすると、すたすたと歩き始める。全身黒ずくめで、首元に襟巻きのように巻いた炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器をなびかせる...そんな後ろ姿がさくらにはかっこよく見えた。昔からあるこの気持ちを、ずっと伝えられずにいた。彼女の気持ちを抑えていたもの...それは“年齢差”と“立場の違い”だった。まだ15の自分は、消太から見れば子どもにしか映っていない。それは本人に聞かずとも分かっていた...彼は、そういう人なのだ。
ーーーこのままでいい...これからもずっと消ちゃんと一緒にいられるなら...
「さくら、置いてくぞ」
「あ、待って...!!」
ハッと我に返ったさくらは急いで消太のあとを追いかけた。こうして、雄英高校ヒーロー科でのスクールライフが始まった。しかし、それは決して楽しい事ばかりではなく、試練と苦難を乗り越えていく事件を経験することになろうとはこの時誰も思っていなかった。